翌日。

は太公望に渡すチョコを持って足早に玉虚宮へ向かっていた。

すると、同じ方向を向いて同じく早足になっている人物が。

勿論、ビーナスである。

「あれ、ビーナスもこっちに用があるの?」

「ええ、こちらにいらっしゃると聞きましたの」

二人はどちらも微塵も疑ることなく、一目散に玉虚宮へ向かう。


―玉虚宮―
バタン。

扉を開くと、目当ての人物が物音でこちらを向いた。

「おお、にビーナス、どうしたのだ?」

聞かれると、二人は同時に、同一人物へチョコの入った箱を渡した。

「「「…は?」」」

三人とも、全く状況が飲み込めやしない。

一番早く我に返ったのはで、我に返ったかと思うとすぐに嫌な予感を脳によぎらせる。

「まさか…ビーナスの婚約者って…」

次いで正気に返ったビーナスが同じく嫌な予感を感じる。

「まさか…の相手のお方って…」

「「望(太公望様)!!??」」

「…むぅ?」

太公望一人、未だに状況が分かっていない。

女二人で声をハモらせると、ビーナスはまずくるりと後ろを向き、斜め上加減に空…いや、天井を見上げ、あらぬ妄想を抱いている。

「ああ、いけませんわ、私達親友ですのに…でもだからといって太公望様をお譲りするわけにもいきませんわ…ああ…」

みたいなことをブツブツブツブツ呟いている。

その間には、太公望をグイッと引っ張り寄せて、声を潜めて談義をする。

「望、まさか、私達二人で二股かけて、両天秤に…!?」

「アホ、んなわけあるかい。あいつが勝手にそう思い込んどるだけだっちゅーの」

「なんでも、公衆の面前で恥じらいも無く愛の告白をしたとか」

「あ、あやつ、そんなことを言いふらしておるのか…(青ざめ)」

「でも、お兄様公認なんでしょ?」

「…、たった今知り得たはずの情報なのに、いつどこで仕入れてきたのだ、そんな情報モノ

双方にらめっこを数秒して、はぁ、と溜息をつき、頭を掻く仕草をしてみせると、太公望は口を開いた。

「あれは、趙公明が封神されるときに勝手に言い置いて行っただけだ」

「ホントにぃ〜?」

「信じぬか、バカモノ。
 …とりあえず、ここは退却だ」

「へ?だってここ望の家(?)じゃない。退却もなにも…」

「ビーナスが正気に戻る前に、逃げるのだっ!!」

太公望は、の手首を握って、それはもう早足で、音もなく逃げ去った。

二人が来る前は太公望しか居なかった玉虚宮は、ビーナスだけ残る形になる。

しばらく妄想を展開したあとで正気に戻ったビーナスは、二人がいないことでまた新たな妄想を繰り広げ始めた。

「…二人の美女に挟まれ揺れ動く太公望様の心、は部屋を飛び出して……」




15分は走っただろうか。

はとにかく、太公望に一応これだけの体力があったのかとそればかりがびっくりだ。

言ったら拗ねるだろう、多分。

「…ま、いーや。とりあえず、今日は2月14日なので、ハイ、チョコレートv」

「おぉ、成程。『ばれんたいん』とかいうやつであろう?」

「『あろう?』って…知ったかぶってるけど、常識だから。一応」

「うっ、五月蝿いのう;;」

二人は適当に座れる岩を見つけると、そこでの渡した箱を開いた。

「…」

しかし、太公望は無言。

何かあったのか、ともチョコを覗き込む。

なにやら考え込んだ末、太公望は口を開いた。

「…なんだ、この変な顔は」

「何って…望だけど」

「…わし?」

「うん」

太公望は再びまじまじ見てから、ぶすくれた表情を見せる。

「わしがこんなヘンテコな顔するかいアホー」

「いや、今まさにその顔なんだけど」

また太公望がチョコを眺め始め、一向に食べる気配がないので、はあげた張本人ではあるが、耳(?)の部分を折り取った。

すると、太公望がいきなり大声を発したものだから、は危うくチョコを取り落とすところであった。

訝しげに太公望を見ると、まるで自分が負傷したかのように「わ、わしの耳がぁー…;;」などと、悶絶している。

「…何?;;」

「…いくらヘンテコな顔とはいえ、チョコとはいえわしの分身。食うのは惜しい」

そういうとまた、「耳ぃ〜…;;」と悶絶を繰り返す。

がチョコを口に運ぶと、「ぐはぁっ!!」とか言っている。

面白すぎる。

はチョコのもう片耳、顔を端と、どんどん侵食していく。

すると、悶絶ゴッコもお終いにしたようで、太公望が今度は恨めしそうにの口元のチョコを睨んでいる。

「ずるいではないか、だけ先に!!しかもわしの分なのに!!」

「だって、惜しいとか言ってたくせに」

「だが食わぬとは言っておらぬ!!」

結構悔しいらしい。遊んでたくせに。

まあ、もともとは太公望の為に作っていたものなので、侵食はやめることにした。

「…あ、じゃあこれもいる?」

「む?」

これ、と指差したのはが半分まで口にいれかけたチョコ。

それと知ると、即座に太公望は首を振る。

「それはいらぬ」

「何でよ」

「それはおぬしが食っても構わぬ」

「じゃ、このチョコをどうするか決める権利は私にあるわ」

「な、なんちゅー屁理屈を;;」

「さあ食え、さあ食えー!!」

「よ、止さぬか、ふぉっ、もがっ!!」

は必死に逃げる太公望の頭を固定すると、手に持ったチョコを無理矢理口に押し込んだ。

逃げる相手に無理矢理やったので、おかげで太公望の顔はチョコまみれ。

「あはは、変な顔〜v」

、おぬし、なんちゅーことをしよるっ!!えーい、仕返しっ!!」

「うわっ、チョコで顔に絵を描くなーっ!!」

「どーだ、悔しかろう」

「へっ、望だって同じ状態のくせにっ!!もっかいやったる!!」

「ぶわっ、こ、これ、食い物を粗末にしては…」

「望だってやったくせにーっ!」



…良い子も悪い子も真似しないように。
チョコは遊ぶものじゃありません。





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バレンタインネタ。
バレンタイン物は、季節を無視して書いたものもあるので、二個目ですね。
途中まではネタ考えてあったんですが、最後のオチとかはもう文を書きながら即興で考えました。
お陰でなんかまとまりのない文に;;
甘く出来ないので変な風に歪曲した文が出来上がるわけですね。
「おっ、甘くなるか?」と思った人も居るはず。
何を隠そう、水乃もそう思いましたし。
でもやっぱムリでした;;
甘が好きな人は、途中で自作してください;;(←オイ。)
というか、あんまり触れられませんけど、望って甘党なんですよね。 唯一それを知る方法は、料理バトルの時のみ。
ちなみに、生クリームとかの話は全部憶測なので、正確性はカケラも御座いませんのでご了承ください;;