寒い日の合理的対処法。






玉虚宮。

寒さから少しでも逃れようと、ガス式暖房器具に手足を捧げつつ、太公望はぼうっと窓の外を眺めていた。

といっても、見るからに身の縮むような景色に眼を向けているわけではなく、その対象というのは、
真っ白な雪原の中に動く一つの背中だった。

「師淑、太公望師淑」

「何かのう、白鶴童子」

「せめて、これでも持っていってあげたらどうです?」

「わしもそうしたいのは山々だがのぅ…老体にはこの寒さがこたえるからのう…」

「師淑は崑崙山の平均年齢より遥かにお若いですよ」

「むぅ…痛いところを;;」

ほら、と白鶴に手渡されたものを持って、太公望は玉虚宮を出た。




手袋などといった野暮ったいものを嫌うものだから、るんるん、と鼻歌を歌いながらごろごろと雪玉を転がすの手は、白い雪に映えるほど赤くなっていた。

〜、寒かろう?」

「ううん、大丈夫だよ〜」

「まあ、大丈夫でも、これを着るのだ」

何?、と振り返ったは、太公望を見た途端、ご機嫌な顔がきごちなくなった。

「これって…どれ?」

「これ、これ」

そういって指差すのは、どう見ても太公望が『着ている』物。

「…って望、もう着ちゃってるじゃない」

「うっ、うるさいのう、白鶴に持っていけといわれたが、わしの分が無かったのだ」

「だからって着るな!!」

「まあまあ、そう言うでない。ほれ、こうすれば…」

後ろを向いて、もぞもぞと何かしら動いた後、太公望はさっと振り向いて、素早くの両腕を袖に通した。

気がつけば、太公望はと羽織の間に挟まる格好に。

「ぬくいであろう?」

「いや、ぎっちぎっちな上に、私は前半分が物凄く寒いんですけど」

「しておぬし、何をそんなに一生懸命作っておったのだ?」

「…人の話を聞けよ。」

の言うとおり、羽織は人間二人分のスペースが作れずに、前部分が後ろに引っ張られる形になって、前側はがら空きだ。

それにも関わらず、太公望は暖かそうに半目気味。

みかんを所望でもしそうな感じだ。

「何って…見てわかんない?雪ダルマ。」

「下半分はもう出来ているのかのう?」

「うん。あっちに転がってるヤツね」

が指差す先には、今転がしているものの倍ほどの大きめな雪玉があった。

それを見ると太公望は、ふぅむ、と満足げに顎に手をやって頷いている。

「よぅし、ではあれに穴を開けよう」

「そう…って、はぁ!?何考えてんの!?」

「雪ダルマの下半分に穴を開けて、雪ダルマ型のかまくらを作るのだ!!」

「あれじゃ、雪ダルマには大きくても、かまくらには小さすぎるよ」

「構わぬ!入ってしまえばこちらのもの」

かなり無謀な言い分である。

しかし、言うが早いか、太公望は羽織からすぽっと抜け出して、雪玉に飛びつき、穴掘りを始めた。

上半分の雪玉はに任せるつもりなのだろう。

太公望の取り掛かりの速さに呆れ返ったは、仕方なく雪玉を大きくする作業をすることとなった。



数時間後。

「でっ、できたぁ〜…」

何とか下部を崩すことなく上の雪玉も乗り、木の棒で手もつけて、理想的ダルマが完成した。

…が。

「…これに入るの?ってか入れるの?」

「うむ。人間、やってみれば出来るものだ」

二人の目の前にある雪ダルマは、見るからに人間二人にはキツキツですが。

文句をぶつぶつ言いながら、が入ってみると、見た目以上には広いが、やはり二人入るには些か狭いように見える。

…と観察中、直後に入室を試みた太公望の上半身がにょっきりと入って来た。

「む、下半身から入ったほうが入りやすそうだのう」

「…なんとしてでも入るつもりですか」

太公望がいそいそと体の上下を変えている間に、は仕方なく体育座りになって省スペースを試みた。

雪ダルマが壊れないか、がはらはらしながら見ていると、数分後に漸く体育座りになった太公望も収まった。

二人は入り口を向く形で肩を隣り合わせて座った。

二人の膝に羽織をかけている。

「ふむ、やはりこれくらいの密度のほうが効率的に室内を暖められるのう」

「かなり狭いけどね」

「まだ言うか。…わしはこれくらいが居心地が良いがのう」

そう言うと、作業で疲れが溜まったか、太公望はすう、と寝息を立て始めた。

暫くすると、首がこちらに凭れてきて、寒さを意識していなかったの肩にぬくもりが広がった。

そうしているともだんだん眠くなってきて、二人ともそこですやすやと眠り始めてしまったのだった。




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久々に封神演義の完全版16、17巻を読んでいたら伏羲の魅力に再び取り付かれてしまった水乃です。
かといって、伏羲の方では小説のネタどころか作り方すら浮かばないので、望ちゃん路線で攻めてみましたv
水乃の絶対的理想を全て取り入れた変態的小説になっちゃった!!と自分でもショック。
望ちゃんと二人羽織とか憧れます…ほぅ。
翌日なり少し経つなりしてから、ふと雲中子に見つかって、「そんなとこで寝てると死ぬよ〜」とか言われてからかわれるのですvv
あぁ雲中子love…v(しまった路線ずれた)