『破壊』と『修復』
壊さないで、
私は彼でなく『私』に言い続けていたのだろう。
「どうして造ったんだろう」
顔もまともに向けないまま、私は雲中子に呟いた。
『壊す』という動作とは対極に立つ私。
実際、傷付いていく人や物を見る度に、私は言い知れぬ痛みを感じた。
それなのに、私が造り出したのは『破壊』を司るイキモノ。
矛盾してる。
雲中子は、静かに茶を啜っていた。
「…じゃあ、造らなければ良かったじゃないか」
口を開いた雲中子から漏れたのは、そんな言葉。
「造らなければ良かっただろう、そんなに太乙の気に入らなかったモノなら」
…何て言った?
私はふと顔を上げて、また静かに茶を啜り出した雲中子を見詰めた。
この男は、今、なんと言っただろう?
気付いた頃には私は席を立ち上がり、手が雲中子の顔の脇にあって、叩いた拍子に、茶碗は雲中子の手からすり抜けてガチャン、と虚しい音を立てた。
私は、雲中子を叩いていた。
「たとえ、物を壊しても、誰かを傷付けても、ナタクはナタクだよ!!
『造らなければ良かった』なんて、考えたこともないっっ!!」
ああ、また、矛盾してる。
勢いでそこまで捲し立ててから息をつくと、言われた雲中子は驚いた様子もなく、淡々と私を見上げていた。
「…なんだ、判ってるじゃない。
そんなこと愚痴ってるから、忘れたのかと思った」
雲中子はふらりと立ち上がると、新しい茶碗を見繕い、再び茶を煎れ始めた。
「『彼』が物を壊そうが、人を傷付けようが、『彼』は『彼』。
そう思われてる時点で、彼は君に必要とされている。
付け加えて言うなら、そんなことは誰でも、勿論私だってとっくに知ってる」
悩む必要など何処にも無いじゃないか。
「…それに、直すのは君の得意分野だろう?」
彼が壊したところで、君が直してやればいいだけのこと。
そう言うと、雲中子は茶碗を手に、実験台へ向かって行った。
一人、取り残された私は雲中子の言った言葉を反芻する。
そう、私は矛盾していた。
それが答だとも判らずに。
答はとっくに知っていたのに。
ナタクはナタクなのだからそれでいいと。
私は何故気付けなかったのか。
雲中子の所に歩み寄ると、雲中子は実験の手も休めずに、付け加えた。
「…どういうわけか、人を治すのは私の得意分野でね」
その言葉に、私は思わず頬が緩んでしまう。
「…得意分野なら、どうなるんだい?」
「手を貸さないこともない」
試験管から目を逸らさずに言う雲中子の背中を叩いて、雲中子に迷惑そうに睨まれながら、私は笑った。
「君っていい奴だよね、雲中子」
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「存在理由」の別の解釈の仕方ver.です。
どっちについても言えるんだが、本人のいないところで何勝手に悩んで勝手に解決しちゃってるんだろうね、この人は;;