愛と色と花言葉
チョコレート会社の陰謀あるイベントから、早十日。
そんなものに興味のカケラも向けられない私は、その三日前から始めていた実験に、ようやく終止符を打ったところだった。
しかしそれから数分も経っていないはずなのに、私は今花屋の店先にいる。
ここに至るには、実験を終え、コーヒーを煎れて一息つこうとした私の研究室に、待ちわびたかのようにすぐさま入室してきた訪問客がいたことから説明が必要である。
―数分前――
「うんちゅうし〜」
ノックもせず、勝手知ったる、という様子で入って来た来客は、入っていきなりこう言った。
「花屋いこっ!」
どうしていつもこう脈絡の無い話をいきなり持ち出すんだろうか、と半ば呆れつつも、返事の是非を答える前に聞いておきたい。
「…なんの用があって、わざわざそんなところへ行くんだい?」
花を買う為とか言う天邪鬼な答えは望んでいないからね、とも付け足しておく。念のため。
「バレンタインよっ!」
それは十日前に終わったはずだけど?と、自室にかけてある質素で味気ないカレンダーを見遣ってみると、は立腹した様子で、
「その十日間、ずっと実験してるようだったから、いつ終わるかも分からないし、用意も出来ずにずっと待ってたんじゃないっ!!」
やれやれ。
これ以上何か言うと火に油のようなので、仕方なく実験後の有意義なる休みを彼女に提供してやる次第となったわけである。
…こういうものは、普通、本人のいない所で用意するものじゃないのだろうか。
まあ、イベントというものに元々不参加である私が言うのもなんだが。
そもそも、どうして恒例に従わず、花なのだろう。
に限って、欧米の方の慣例を引っ張り出してくるとも思えない。
「だって、今からチョコ作ってたら時間かかるでしょ?」
そう答えると、は白い花の方へ向かって行った。
それは、どちらかと言うと花屋というより、スーパーなどの方がお馴染みのもの。
「私、コレ好きだなぁvv雲中子って白いイメージだし。んーと…『ははこ草』?」
「あまり、花束には向かないと思うけど」
「なんで?」
忠告してやると、本当に疑問に思っているように聞いてくる。
「…七草って知ってる?」
「?、うん」
「ははこ草は、七草の一つだよ」
「え、そうなの?」
頷いてやると、少し悩んだ様子だったが、数秒経った後に「ま、いっか」と言って、花束の素材に決定したようである。
「大胆な想いをどうも有難う」
いつも通りに意地の悪い笑みで言ってみた。
「へ?何で」
「『いつも想う』」
「?」
「ははこ草の花言葉」
「…」
無言で顔を真っ赤に染める。
追い討ちをかけるかのように、もう一つ。
「あと、白は『汚したくない、大事にしたい』という心理を表しているんだよ」
「え゙」
さらに沈没したをしたり顔で眺めつつ、雲中子は赤い花を持ってくる。
「なら私は、これにしようかな」
「…ホワイトデーは3月だけど」
周りから「変人」と称されている私に今更常識論を説かないでもらいたい。
「…アネモネ?」
「アネモネの花言葉は『期待』だけど、赤いアネモネにはまた別に花言葉があるんだよ」
「何?」
「後で自分で調べてご覧」
今教えろと迫るを放置して、あとは適当に繕ってもらおうと、雲中子は店員の元へすたすたと歩を進め始めた。
「あ、因みにね」
ピタリと足を止めると、首だけをの方に向け、いつもの笑みで豆知識をもう一つ。
「赤は『激しい愛情』の意味があるんだよ」
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バレンタイン物二作目。
心理物とか花言葉とか結構好きですv
雲中子は、とりあえず薀蓄ならいくらでも持ってそう。花言葉にしても。
花代は雲中子持ち推奨です。何だかんだ言っても優しいはず!
因みに赤いアネモネの花言葉は「君を愛す」。
でも色々ありますけどね。花言葉って。
ごぼうの花言葉にびっくりした水乃。
「いじめないで」って…;;というか、ごぼうにもあるのか。
結構、イメージピッタリですけど、ある意味ごぼうに失礼だなぁ…とか思ったり。