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風を、感じる。





吹く風が気持ちいい。

辺り一面草原で、風の流れを遮るものは何もない。

弄ばれる髪をそのままに、私は大きく風を吸った。

いつ来ても変わらぬ香り。

いつ来ても変わらぬ景色。

その景色の一部として、彼はいた。

コツコツ。

まるで宇宙服のようなスーツの顔面部である窓を軽く二度叩くと、スーツの中からかすかに呻く声がした。

「お久しぶりです、老子」

「…なんだい、。起きるのにもカロリーを使うんだよ」

「あら、ご存じないんですか?寝ているのには、それは多大なエネルギーが必要だって事」

「…むぅ;;」

羊の背中に埋もれるように乗っかっていたスーツが、むくりと起き上がる。

そのまま羊に寄りかかるが、長年を共にしたその旧友はそれを拒むことなく、その場で草を咀嚼するばかり。

も隣に寄りかかった。

「…貴女はいつもここに来るね」

いつもと言っても仙人の感覚。

500年から1000年に一度というくらいだが、それでも老子の下を訪れる者を考えると、頻繁に入る部類なのである。

「…私にとって大切な人ですから」

は空を見上げながら、呟くように言った。

それでも、羊が草を食み、風が過ぎ去る音しか存在しないこの場所は、その声量だけで十分に空気を振動させる。

空は雲ひとつ浮かばず、唯々澄み切った青だけが広がっていた。

「老子こそ、何故私が来るときは通信ですらなく、起きて私を待っていてくれるんですか?」

「…どうしてだろうね。ただ、が来ると判るときは、自然と目が覚めてしまうんだ」

「…それは、『トクベツ』ってこと?」

「そうだね…この世界では、そう呼ぶのかもしれない…」

貴方は、この青い空の下、澄み切った空気の中で、目を瞑り、遮断された空間の人工呼吸器が生み出す空気のみを吸って生きている。

すべてを手にしながら、すべてを拒んで世界を見つめ続けている人。

「あーあ。うらやましいな、こんな生き方。私もここで、こうして、ずっと目をとじて生きていこうかな。
 …どう思います?」

横に並ぶと、スーツに隠れて彼の顔は見えない。

それでもきっと、目を瞑っているのだろう。

夢の中の世界を見つめるために。

問いかけられて、考える風でもなく、そのままそこに在る答をそのまま口に出すように、彼は答える。

「…私は、止めることも勧めることもできない。貴女がしたいと思う生き方をするべきだと思うよ。でも一つ言うのなら、貴女はそれは望んでいないんじゃないかな。
 目を開き、世界を見つめて人と交わる。そんな生き方を望んでいるように見えるけれど」

「…バレてたか。」

勧めてはくれない。

わかっていたけど。

『トクベツ』という言葉で飾ってくれても、決して自分の気持ちを示さない。

貴方はそんな人。

私は大きく息を吸って、すっくと立ち上がった。

「それじゃあ、失礼します。次は500年後にでも」

「なるべく眠りが浅い時期を見計らってくれると嬉しいな」

「了解しました」

彼らしい言葉にクスリと笑いをこぼしながら、最後に一度振り返る。

振り返り様に見た彼の目は開かれていて。

瞼の裏で世界を見つめるその金の目は、私を見つめていた。

「…待ってるよ。

「ええ、それじゃ、また」


ふわりと笑って去ったの後には、ただ柔らかい風が残るばかりだった。







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たまにこういうヘンなの書きたくなるんですよね;;
初めは太上老君とのギャグにしよう、と思ってたのに、気付いたらわけのわからんものに。
「寝るのも体力使う」ってトコが書きたかっただけだったり。
太上老君はギャグ要員だと思っていたのに、案外難しかった。うぅむ;;
やっぱり哲学的シリアスに走っちゃいますねぇ;;
しかも、太上老君で書けるシリアスって、もうネタつきた気がする…
あぁ、いっぺん老子でギャグ書いてみたいなぁ。