喧嘩になるべき必要条件。






「ぜーったい玉鼎のトコ行くっっ!!」

「いーや、下へ降りるっ!!」

「この前も行ったでしょー!!?しかも元始天尊さま騙くらかしてっ!!」

「この前と言えど、10年前の話であろうっ!!」

「違うっ、7年前くらいよっ!!」

「どちらもそれほど変わらぬ!」

天気も良好なある昼下がり。

玉虚宮には元気な二人の怒号が響き渡っていた。

かれこれ1時間ほど口論を続けているが…

「もうっ!望のわからずや!」

このの一言で終結を見たようだ。

はぷいっと向きを変えてしまうと、すたすたと玉虚宮を出て行った。

太公望は太公望で、むすぅ、と腕を組んだまま動かない。



は怒りにまかせて早めのペースで歩を進めていた。

「今日は玉鼎が、美味しいお茶が入ったって言ってたから、望と二人で貰いに行こうと思ってたのにっ!」

先ほどの喧嘩の内容は、今日一日の過ごし方についてだった。

は、呟いているように玉鼎真人の下へ出向いて、お勧めの茶を貰って楽しもうと考えていたのだが、太公望は久々に下へ降りて人々の暮らしぶりを眺めたい、とのことだった。

お互い、引くことを知らないので、あのような喧嘩に発展してしまったのである。

こういう喧嘩があったとき、は必ず決まったところへ赴く癖があった。



終南山玉柱洞。

「雲中子〜、いる〜?」

「いないよ」

入り際に聞いたの言葉に、雲中子は来客の方も見ずに答えた。

皮肉屋な性格は、相変わらずのようである。

がその応答を気にもせず、椅子にどっかりと座りこむと、雲中子は席を立って茶を入れ始める。

「また喧嘩かい?飽きもせず」

「私だって、やりたくてやってるわけじゃないもん」

むっつりと頬を膨らませるの前に、茶碗を一つ置くと、雲中子は再び向かいの椅子に座った。

「本当に、仲が良いんだねぇ。君たちは」

「……『喧嘩するほど仲がいい』って言いたいんでしょ?なんで喧嘩ばっかりする私たちが、仲がいいなんて言えるのよ」

不機嫌に茶を啜るのその言葉に、雲中子は楽しそうに聞き返す。

「喧嘩をするための必要条件って何だか知ってるかい?」

「なにそれ」

「聞きたい?」

話に興味を持ち始めたは、茶碗を置いてこくりと頷く。

その様子に、雲中子は満足げに話を始めた。

「まず、喧嘩になる原因は何だと思う?」

雲中子の問いに、少し悩んでから答を出す。

「…意見が食い違うこと?」

「そう。意見が食い違い、お互いに自分の意見を主張して引かないことを喧嘩という。
 そこで、意見が食い違うための条件があるんだけど…」

「何?」

が興味津津で聞くと、雲中子は茶を啜り、少し焦らした。

「…ねえ、彼と喧嘩する度にここへ来るけど、はっきり言って迷惑なんだよね」

ふと雲中子が本題から外れてそんなことを言い出した。

は拍子抜けすると共に、雲中子の言葉の内容を理解すると、むっとして立ち上がる。

「なんでいきなりそんな事言うの?ちょっと位話聞いてくれたっていいじゃない!」

そりゃあ、迷惑はかけてるとは思うけど…ともごもご言い出すと、雲中子はを見上げてにやりと笑った。

「…と、こういう風に君は怒るだろう?」

「は?」

急な話の展開にはついていけず、ぽかんと口を開けた。

雲中子は構わずに説明に入る。

「つまり、私が君の気に入らない本音を言うことで、君は自分の意見を主張し、怒って喧嘩に持ち込もうとした。
 意見の食い違いとは、本音と本音の会話じゃないと出来上がらないってことだよ」

はいつもの調子で講義を始めた雲中子に、あっけにとられて椅子に戻り、再び講義に聞き入り始めた。

雲中子はそのまま講義を進める。

「こういう状況は、お互いに気を許して話せない限り、まず起こらない。
 人は気を許せる相手でない場合、意見が違っていようと、建前を用いて相手の意見と表向き合せようとするからね。
 だから、喧嘩は本音で話し合えるほど相手との距離が近くなければ、起こり得ない」

一語一語はっきり説明する雲中子に、は「そっか、」と頷いた。

「喧嘩するってことは、それだけ望と本音で話し合ってるって事になる訳ね」

「結論から言うと、そうなるね」

は一人でしきりに頷くと、すっくと立ち上がり、戸口へ向かった。

「望とも一回話して来る!ありがと、雲中子」

再び茶を啜りながら、雲中子は「どういたしまして」と答える。

洞府を出ようとしたとき、はふと立ち止まって振り返った。

「ところで、さっきの本気?」

雲中子は少し会話をさかのぼってから、該当する会話に行き当たったか、「ああ、」と呟くと、

「本気」

と一言。

酷いなぁ、と膨れてそのままが洞府を出て行ってから、雲中子はため息をついた。

「…実験の最中に相談に駆り出されて、君の言動に惑わされる私の身にもなってもらいたいね」




その後の玉虚宮では、のんびりと過ごす二人の姿が見られたとか。







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久々にドリー夢書いた〜!
これは果たして太公望夢なのか雲中子夢なのか。
なんだか水乃は話の端々に玉鼎を使うことが多いようです。
なんか使いやすいv玉鼎のお茶w
水乃にとっての雲中子は、なんだか教育係的存在です(笑)