魔の機械






本日1月1日。

は新年の挨拶にと、外へと踏み出した。

「太乙〜、いる〜?」

が足を向けた先は、乾元山金光洞。

洞府の主・太乙真人は、外出中のようである。

しょっちゅう遊びに来ていて、にとっては最早第二の家も同然となっていた為、は勝手に上がりこんで待っていることにした。

あまり待つこともなく数分後、洞府の主が帰ってきた。

「あれ〜?来てるの?」

来客に気付いた太乙は早速洞府の中へ入る。

ガタンゴトンと大きな音を立てながら、なにやら重そうなものを抱えてやってきた。

「ねえ聞いてよ!今雲中子の所行ってきたら、お年玉代わりって『魔の機械』を貰ってきちゃった!!」

「『魔の機械』?」

「そう!名付けて『ガスで動く暖房机・おこた』!!」

成程、太乙が重そうに持ってきたものは確かに机を形作っている。天板と脚の間に布団も挟まっていていかにも温かそうだ。

しかし一つ疑問点が。

「なんでガスが必要なの??」

布団が挟まっている以外にはなんの変哲もない机に見える。

太乙はどすんと『おこた』を置いて、脇に付いていたスイッチを押した。

「まあ入ってみて」

自分が中に入ると、太乙はを手招きした。

初めはあまり分からなかったが、だんだんじんわりと温まってくる。

「あったかい〜v」

「でしょ?」

冬真っ盛りの中、上空で暮らしている二人は『おこた』という、正に『魔の機械』によって元旦をまるまるその中で過ごそうかとしていた。

だがしかし、そこには抗うことすら難しい大きな壁が立ちはだかっていた。

人はそれを「食欲」と云う。

「…太乙、お腹減った…」

「あ、まだおせち作ってないんだった」

「作って〜」

「でも出たくない〜」

『おこた』を「天国」と形容するなら『外』は正に「地獄」。

ただでさえ寒がりな太乙が出るはずもなく。

どうしようかと二人が悩んでいた時。

「…何をしとるのだおぬし等」

「あ、太公望。いいところに」

見上げると、挨拶に来たと思われる太公望が呆れたような眼差しでこちらを見ている。

「おせち作って〜」

「何をぬかしておる。自分で作らんかい」

「でも外寒くって」

「ここあったかいよ〜?望も入る?」

手招きすると、その見慣れぬ机に疑問を持った太公望も『おこた』の中へ入った。

「む、温いのう」

「でしょ?雲中子から貰ったのvお年玉代わりに」

「あやつ…気が利くのか横着なのか;;」

「んで、出れなくなっちゃった」

「おせち作ってよ〜」

「無理」

「なんでさ」

「わしも出られなくなった」

「「阿保」」

「何を言うか。そもそもわしを中に呼び込んだおぬし等が悪い」

「玉虚宮で白鶴とか作ってないの?」

「作っているかもしれんが、出られないなら結果は同じじゃ」

「出ろ。もう『おこた』の性能は分かったことだし」

「嫌じゃ。おぬしが出ろ」

三人とも、腹は減ったが出たくない。

おしくらまんじゅうを続けている三人の所に、また次の来客が。

次は勧めまい、と三人が心に決めて見上げると、そこには道徳の姿。

ここまで走ってきたのか、頬は上気していて、湯気が見えそうだ。

「あけましておめでとうっ!そんなところで三人で固まっていても、温まらないぞ。スポーツしよう、スポーツ」

そんなハイテンションな言葉を聞きつつ、三人はがっくりとテンションを下げた。

「道徳か…」

「道徳ではな…」

「無理か…」

道徳は消費専門。生産など出来よう筈もなく。

「なんでテンション下げるんだよ。俺が来ると」

太乙は諦めた様子でまた勧める。

「…道徳も入る?『おこた』」

「あったまるよ〜…」

「また、雲中子か太乙の発明品だろ。そんなものに入って暖を取ろうとするから力が出なくなるんだぞ」

とか言いながら、道徳もいそいそと入ってきた。

数分経つと、すっかり道徳も『おこた』の餌食に。

「…道徳、運動すれば?『おこた』に入ってないで」

返事はなく、耳を澄ますと寝息が聞こえる。

起きた頃には「休息も大事」とかぬかすに違いない。




さてこちらもいよいよ佳境。

腹の虫が本格的に騒いできた。

「どうしよ〜;;おせち食べずに元旦終っちゃうんじゃない??」

「有り得る;;」

「いい加減、誰かが作らなくてはのう…」

そう言うと、また誰かやって来た。さすが元旦。客が多い。

誰かと見上げる前に声が聞こえてきた。

「太乙さん、コーチいるさ?」

「あ、いるよ〜。ぐっすり寝てるけど」

天化は洞府へ上がりこむと、すぐさま自分の師を見つけた。

「あ、コーチ!帰ってこないと思ったらこんな所でぐーたら怠けてたさ!」

「ふにゃ?…あ、天化〜、おはよう」

「何寝ぼけてるさ」

「天化くんも入るかい?『おこた』」

「この机のことさ?」

「そう」

天化も勧められて中に入る。

道徳は再び寝入ってしまったようで、仕方なく会話に興じることにした。

「…じゃ、朝から何も食べてないさ?」

「そう、何も」

「おせち無しの元旦になるかも…」

「…」

よっこらせ、と天化が『おこた』から這い出る。

「どうしたの?天化」

『おこた』という名の魔の機械から這い出た初の勇者に目を丸くしながら、は問うた。

「しょうがないから、俺っちが作るさ」

「『作る』って…天化おせち作れんの?」

「俺っちだって豆や魚詰めたり、伊達巻やかまぼこ切るくらいのことは出来るさ」

はそうか、おせちって簡単な料理だったのかと知った。

天化は太乙に食材や重箱の場所を教わってから台所へ引っ込んだ。




天化が台所に引っ込んでから数十分。

出来た、と言って天化が重箱を抱えてやってきた。

「わ〜すご…」

い、と言い切る前にその言葉はぷっつりと失われた。

伊達巻、かまぼこ、煮豆、数の子にごまめ。

物は合っている。いや、合っていないと言うべきか。

…ごまめ?

「…何コレ」

「何って…」

「ごまめだろ」

食べ物の匂いに意識を復活させた道徳がさも当たり前のように答えた。

どうやら道徳公認らしい。

「そうか…道徳が教えたのだな…」

「道徳だもんね…」

「道徳だもん…」

ごまめと称された『それ』は、一匹で重箱の半分を占めていた。

見た目は合っているが、でかさは通常の数倍。てかどっから持ってきたんだ。

天化はこの崑崙山の中でも数少ない常識人だと思っていたのに…!!

三人は項垂れてなどは机に顔面をくっつけてショックの涙で湖を作っている。

いや、一応食べ物だしさ、嬉しいけどね。

腹が減りすぎていつも以上に異常な物への免疫が低くなっているのかもしれないけども…

何だコレは。

天化と道徳は頭に?を三つずつ浮かべている。

「天化と道徳よ…ごまめというのはもっと小さく、一匹小指程の大きさのものを言うのであってだな…」

太公望が二人に教鞭を振るっている時、さらに客がやってきた。

「太乙、どうだいそれの効果は」

何匹かかったかなとでも続きそうなその声に、道徳が身を固める。

「そ、その声は…;;」

「やあ、やっぱりかかっていたね、道徳」

「いらっしゃい、雲中子」

周りがにこやかに来客を迎えるのに対して、道徳一人が死刑宣告をされたかのように真っ青だ。

雲中子は雲中子で、まるで玩具を見つけたかのようにシニカルな笑みを浮かべている。

雲中子の事だ。外で少し盗み聞きでもしていたんだろう。

太公望に「何を話していたんだい?」などと訊いている。

太公望から流れを聞きながら、へえ、ふーんと相槌を打ち、聞き終えるとにやりと道徳の方へ向き直る。

「ごまめを全く違うものと取り違えていて、あまつさえ弟子にまで直伝するなんてよろしくないね?道徳」

道徳は冷や汗をたらたらと流している。

このネタでまた色々振り回されるに違いない。

そんな二人を見ながら、食欲に勝てなくなった四人は、その大きなごまめに箸をつけ始めた。

「みんな集まって、おせちも食べて、今年はいい年になりそうだねぇ」

「一人今年の運命を宣告された奴もおるがのう」

「でも毎年こんな調子さ」

「毎年正月に雲中子にいいネタ提供してるもんね、道徳ったら」

「懲りないね、道徳も」

雲中子は道徳を苛めるのを中断し、そのごまめにしばしば呆れた眼差しを向けたのち、箸を付ける。

道徳も、雲中子のターゲットから外れて更には目の前に食べ物があるものだから現金なもので、また血色を良くして食卓に参加する。

「これだって美味いだろ?」

「まあ、美味しいとは思うよ。ごまめじゃないけどね」




『おこた』に集まって、賑やかな食卓で迎える新年。

今年も賑やかに過ごせることをお祈り申し上げます。





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これは、天化と太公望に面識があるようなので、時期とすれば封神計画始まってからかな〜。
ナタクはドコへ行ったのか??(初めは入れようと思ってたんだけど実力が足りなくて無理でした;;)
この話だと崑崙では「こたつ」が「おこた」と伝わったようです。
と、いうことは…
玉鼎や楊ゼン達も「こたつ」を「おこた」と呼ぶと!?(腐女子の発想)
ところで水乃は色物三人組LOVEvvです。
初めてWJで見た時は意外な三人組だなと思っていましたが、色んな小説を見て回り、ようやく自分の中で位置付けが出来上がりましたv
道徳は、雲中子に苛められるものだと。(ここポイント。)
太乙はそれを楽しく見守っている立場。
それでこそ色物三人組!と、学習しました。(笑)
WJ版では結構成長してからですが、原作では天化は三歳の時に道徳に連れ去られたらしい。
あと原作では天化は次男でなく長男らしい。てかWJでもお兄様出て来ないし、何故次男設定にしたんだろう??
というか…これヒロインいらないんじゃないかな〜、最早夢小説じゃないよな〜。
キャラ多くすると、ヒロインの存在が薄くなっていくのが難点;;(逆ハーとかは別問題ですが)
崑崙にはコンセントないんだろうなあ、と思ってガス式にしました。
太公望の腕もガス式だし(ロケットパンチに吹いた水乃)(笑)
あれ最後まであのままなんだろうか…(伏羲になっても??)
うちにも『おこた』欲しいでーす;;