桜餅
「差し入れでーす」
「おう、か。差し入れとは?」
陽光照らす昼間の玉虚宮。
そこには主はおらず、その弟子だけが瞑想と銘打った居眠りをしているところだった。
差し入れという言葉に反応した太公望の目の前で、持ってきた風呂敷包みを開けてやる。
中から桜色のもち米が葉に包まれたものが出てくる。
「ほぅ、桜餅か。の手作りとか?」
「その通り!」
自慢げに胸を張りつつ、テーブルに広げる。
立派な出来の桜餅をしげしげと眺めつつ、太公望が感心した様子で訊いてくる。
「この時期によく桜の葉が手に入ったのう」
現在3月上旬。開花にすら早い時期である。
「うちの師匠お茶好きでしょ?だから花見出来たらいいんじゃないかって、楊ゼンと私が気ィ利かせて、雲中子様に頼んで開花の時期をずらす薬を作ってもらったの」
ずらした金霞洞の桜の旬は1月下旬から2月中旬。よって現在は丁度葉が出始めている時期にあたるのだ。
「桜餅を作ったのも、葉っぱ見て思いついたからなんだv」
「成程のう」
話している間に太公望は茶を沸かしていて、丁度盆に急須と茶碗を乗せて帰って来たところだった。
茶と太公望が卓についたところで早速桜餅を手に取る。
太公望はそのまま口に入れるが、その向かいではが必死に桜餅と格闘している。
何故ならば。
「…葉が嫌いなのか?」
こくり。
無言で桜餅を凝視しながら頷く。
必死に引っぺがそうとするも、もち米がくっ付いて葉が千切れたり、もち米ごと捲れて中の餡が見えてきたりしている。
太公望はその悲惨な様を眺めながら、半ば呆れ加減で言う。
「その葉の塩辛さと餡の甘さが合うというのに」
「合わない。美味しくない」
「自分が作ったくせにのう…」
「見た目の為!」
は、太公望の意見を頑として認めず、太公望が一個目を平らげた後も格闘している。
「うー、剥がしにくい;;」
「道明寺の方だと、それは難しかろう」
「なに、その変な名前」
「このもち米で包んであるヤツを道明寺。もう一つ、皮のようなもので挟んであるヤツを長命寺と呼ぶのだ」
「へぇ。成程、そっちだと葉っぱくっ付かないもんね。
そっちにしとけば良かった」
「そっちの作り方も分かるのか?」
「わかんない」
「…;;」
話しつつ、やっと葉を剥がし終えた桜餅は、原型を留めていなかった。
まあ仕方が無い、と元の面影の無くなった桜餅を口に放り、は片手に残った葉をどうしようかと眺める。
「望、いる?」
「いらぬ。それだけで食っても美味くないわアホ」
「うーん…」
しばし悩んだ後、パッと閃いたようにポン、と手を叩く。
「四不象にあげよう!」
「ほ、本気か…?」
「本気、本気」
四不象どこ?と訊いてくるに一応場所を教えつつ、気の毒に…と思う太公望だった。
「…あ、いたいた」
四不象は草の生えた岩の上で横になっていた。
「ラッキーv、お誂え向きに寝てるわ」
『四不象は草食だから』と、の行動がの良心から来ているのでは、というほのかな期待(?)は、この言葉によって裏切られた。
やはりただのイタズラらしい。
寝ている四不象の様子をよく観察してみると、これまたお誂え向きに寝ながら草を食べているようだ。
「スープー、おぬしまた…;;」
相棒の食い意地の張り具合に、ただただ呆れる太公望。
は寝ている隙に、と四不象が食んでいる草の上に葉を乗せる。
意識のない四不象はそれを避けるはずもなく、食べる。
そして、あまりの予期せぬ塩辛さに飛び起きた。
「しょ、しょっぱいっス!しょっぱいっス!!み、水〜っ!!!!」
「おやおや大丈夫かい?四不象。ハイ、水だよ!」
「た、助かるっス!」
白々しく渡された水を、予期せぬピンチから思考回路が停止している四不象は、疑うことも出来ずに受け取る。
「、渡したのは本当に水であろうな?」
「水だよ〜。ただの仙桃を溶かしただけの」
「酒ではないかっ!!」
言ったそばから、渡された水を一気飲みした四不象は目を回してぶっ倒れる。
「あぁっ、スープーっ!!…アレはアルコール度高いのだぞ?;;」
「堅いこと言わない、言わないv」
酔った四不象をそのまま放置しておくわけにはいかないので、太公望が背負い、がそれを軽く手伝いつつ、玉虚宮に運んだ。
翌日、四不象の記憶からは昨日の出来事が一切排除されていたのだった。
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まさについさっきの水乃のお話です。
いや、四不象にはあげてないけど;;勿論。
桜餅の葉っぱが食べれずに剥がそうと奮闘したら、手も餅も悲惨なことになった;;
はっきり言って、食欲失せる。(泣)
だから水乃も長命寺タイプ。
一応書いとくと、ヒロインの師匠は勿論玉鼎真人師匠vv
楊ゼンと同じ立ち位置なので、雲中子を呼ぶ際は「様」が必要。
「雲中子様」と時々楊ゼンが言うとなんだか違和感を覚えます;;
ヒロインはその後望に桃酒と桜餅禁止令を出されます。(笑)