寒い日のおむかえ
冬。
人間の住まうところよりも上部にあるここ、崑崙山でも雪が降り積もり始めていた。
「ゆっきだ〜いvv」
はそこらの子供達の上を行くはしゃぎ様で、自分の宿舎兼修行場である玉虚宮から飛び出していった。
もう出てから随分経つが、雪しか頭にないには関係ない。
雪ダルマを作ってはこれまた自分で作ったかまくらでそれを眺め、悦に浸っている。
「これで熱燗があると、なお良いんだけどなぁ〜v」
腐っても元始天尊の弟子。
酒は大の好物である。
そこへ、そんな思考を共に出来そうな人物がやってくる。
「こら、。洞府から出てどれほど経ったと思っておるのだ」
「あ、望〜vおかえり〜」
「…おぬしの家はあっちだとゆーに。」
太公望は半纏にマフラーといったいかにも冬なスタイルで、両手を互いの袖の中にやっている。
「ほれ、帰るぞ。冷えたであろう」
「えー、寒くないよ?」
「それは冷え切っておるからそう感じるだけだ。ほれ、触ってみい」
いつも身につけている手袋を外し、ほれ、と差し出された手を触ってみると、成程、いかに自らが冷え切っているかがわかる。
自分で寒いと思っていなくとも、あったかくなるとほっとしてしまうのは人間の性らしい。
「はぁ〜…和むう…望なんでこんなにあったかいの??手袋してるとはいえ」
「それはわしの心があったかいからだ」
「…」
無言で引く。
「冗談だっつーの。これコレ」
ごそごそと半纏の中から取り出されたのは、外の空気に触れてほかほかと湯気を立ち上らせている湯たんぽだった。
しかも一つだけではない。五つとかそんなに甘っちょろくもない。
どこにそんなに収納してたんだと言うくらいの数の湯たんぽを太公望は手品のように次から次へと取り出した。
「寒そうだからのう。にも一つやろう」
「ありがとうv」
そんなに一杯あるのだからくれない方がおかしいとも思えるが、わざわざくれたのだしだって礼儀が無い訳ではないので、お礼はしておく。
「では、帰るとするかのう」
「うん」
湯たんぽを貰ってすっかりご機嫌になったは、雪ダルマとかまくらに未練は全く無くなったようだ。
歩いている途中、は周囲を見回して、相当遠くへ来ていたのだと悟った。
「ね、望」
「ん?なんだ」
「わざわざ探しに来てくれたの?」
少し遅れて歩くには、太公望の寒そうに丸める背中しか見えない。
元々インドア派な性質な太公望。寒さには弱い。
「…そんなわけなかろーが。わざわざなどの為に来るかい。わしは少し太乙の方に用事があったので、ついでにこっちに来たまで」
「成長速度の速い仙桃の種だっけ?それ昨日貰いに行ってたでしょ」
「それとは違う用だ」
「…ありがとね、望」
「礼など要らぬ。が、もし何かくれるなら豊満「ヤダ」
というか、持ってない。
少々ぶすくれた様子で、太公望は歩調を緩め、の隣につく。
「原始天尊さまがの帰りが遅いと怒り狂っておったぞ。あの長ったらしい髭が逆立ちそうな位」
「え、嘘」
「嘘だ。よーく寝ておる、あの老いぼれじじい」
「ちょっと。一瞬本気で玉虚宮帰るの考え直しちゃったじゃない」
「む、それはならぬぞ」
「原始天尊さまがまた怒り狂うから?」
「いや、わしが寂しいであろう」
「いつも一人岩の上でぐっすり惰眠を貪ってる人が?」
「あれも修行だ」
「嘘つけ」
玉虚宮へ着くと、原始天尊が入り口の前で仁王立ちしていた。
太公望は原始天尊が寝ている間に出て来た訳であるからして、原始天尊から見ると同罪な訳だ。
「げ、起きとる」
「さっき寝てるって言ったじゃない」
「うーむ、自分で起きたか白鶴に起こされたか…」
「とりあえず逃げようっ!!」
「そうするかのう…を連れて来たというのに…報われぬわし」
「言ってる場合か!!」
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冬は手の冷たさが尋常じゃないです(泣)
ちなみに、手があったかい人は心が冷たい説もあるようですね。一体どっちだ!?
この小説、もともとはヒロインの立ち位置に太乙置いて、太公望の立ち位置にヒロイン置いて太乙夢にする予定だったんですが、太公望のがしっくりくる、ということで太公望夢に。
ま、望ちゃんも好きなのでどっちでも良いのですv(オイ。)
あともうちょっと甘くする予定でしたが、恥辱心が邪魔したため、私自身にこれ以上の甘は要求出来ないということを知りました;;