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Open sesame!





「太乙〜」

「…」

「太乙、いないのかい?」

「…」

いないのか、という質問をしながらも、雲中子は洞府の中へずかずか入ってくる。

私が居るのはお見通し。

ただ返事をしないだけってことも。

じゃあ、なんで返事しないか、それは判ってる?




ある日から一ヶ月。

私は一度も雲中子と顔を合せなかった。

私は毎日のように玉柱洞を訪れた。それでも顔を合せなかった。

何故、って、入口の扉に『太乙入室禁止』って札が掛けてあって、鍵だってかかってたから。

そこまで拒まれて無理やり入って行こうとするほど、私は勇気もなかったし、自信もなかった。

雲中子って、私のことそんなに嫌いだったのかな。

それとも、嫌いになった?

考えていくうちに、私に対して嫌悪があったにも関わらず表に出さずにきた雲中子にも、それに気付かずにいた自分にも腹が立ってきて、二度と雲中子なんかと会わないと決めた。

それで、一ヶ月。




雲中子が部屋に入って来た。

一ヶ月見ることのなかった顔が、嗅ぐことのなかった薬品の香りが私の前に現れた。

私は、どこから貰ってきたか、むすっとした顔で長椅子に座り、『NO』の書かれた面を上にした枕をギュッとばかりに抱きしめていた。

雲中子は、何も気に留めぬ様子で、自分で茶を煎れ、私の目の前の机に二つカップを置いて、私の隣に腰かけた。

そのまま無口で茶を啜る。

その無神経な動作にたまらなくなった私は、とうとう自分から口火を切ってしまった。

「…ねえ」

「なんだい?」

「私は怒ってるんだよ。見えないの?この『文字』!!」

ぐいっ、と雲中子のほうに枕を抱えたまま上半身を向ける。

それを見て雲中子はああ、と呟いた。

「その文字か。わたしはてっきり『YES』の文字を抱えているものだと思ったから」

どれだけポジティブなんだ。

「もういいっ!」

また前を向きなおしてむっつり黙りこむと、雲中子は何も言わず、辺りに沈黙が流れた。

しばらく雲中子は茶を啜っていたが、茶が無くなると口を開いた。

「君は何に対して怒っているんだい?」

自分には何の非もないと言いたげで、そんな言葉が来るとは私は全く考えてもみなかった。

「扉の前に『太乙入室禁止』なんてぶら下げて、鍵までかけられてまで入室を拒まれて、不快にならない人が居るとおもう?」

「ああ、それ。そうでもしないと、入ってくるからね」

「私だって、理由さえ言ってもらえば…!」

「だって、太乙に『大事な研究があるから』と言ったところで、入ってこないと言えるかい?
 『邪魔をしないから見せてくれ』というのが関の山だろう?」

「それは…、でも、本当に大事な研究だっていってくれれば、私だって分別を弁えるよ」

「わたしがそこまで強く言える人間だと思うのかい?君に対して。『見せて』とねだられて、それでも『ダメだ』と言えると?
 …それに、今回の研究はどうしても君に言うわけにいかなかったしね」

「…なんなのさ。その研究って。もう終わったんでしょ?」

むつっとして問いかけると、雲中子はポケットから何やら取り出した。

雲中子の手の中にあるのは、手のひらにすっぽり入るくらいの大きさの、ごつごつとした石。

「何、それ」

「石」

「そんなの言われなくてもわかるよっ」

「まあまあ。ちょっと暗くしてみて」

そう言って手渡されると、私は言われたとおりに手で包んで暗くしてみた。

すると、石全体が微弱に、妖艶とも言える紫の光で覆われた。

見るものを虜にするような微弱な輝き。

「そういうの好きだろう?」

石に見入る私を満足げに眺める雲中子。

「君が気に入るんじゃないかと思ってね。ちょっと元の石を加工して作ってみたんだ」

「それで、内緒だった?」

「内緒じゃないと感動が薄れるからね。気に入った?」

「…ん、まあね」

「それじゃあ、『YES』にしてくれる?その枕」

「…しょうがないなあ」

ごそごそ、と枕を反対向きにして、『YES』を表に向ける。

「これでやっと、中に入れたかな?」

ずっと鍵を閉められていたからね、なんて言う。

そんなこと言ったって、最終的にはこじ開けるつもりだったくせに。

現に、今だってそう。

魔法の呪文でたちどころに私の機嫌を直しちゃうんだから。

雲中子にはかなわない。








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またまた衝動的に書いちゃった雲乙第二弾。
「Open sesame!」は、なんとなくわかるだろうけど、「開け、ゴマ!」ってことです。
英語でもあった!!って、辞書見てびっくり。
もしかして、英語由来??
「YES/NO枕」はここでは健全な意味でとらえてねw(爆)