存在理由
壊しては、いけない。
無神経にもその子に吐いたのは、何度目だろうか。
封神計画なんて影も形も無かった頃、私は元始天尊さまに要請されて『霊珠』の研究を始めた。
「必要になる時がくる」という元始天尊さまの言葉に疑問を持たないことは無かったが、私自身、『宝貝人間』というものの研究にはとても惹かれることもあり、それこそ昼夜を徹して研究に励んだ。
「いつか必要になる時」の為に造られた、物を壊す者。
生まれながらの戦士、と出会った人々は彼を形容した。
生まれながらの戦士。
彼にとって、『壊す』ことが必要とされる理由であり、『壊す』ことが存在する理由。
不安が無かったとは言えない。
いつか、この子が『壊す』べきものを失う時代がやって来たら、この子はどうなるだろう?
私達にとってみれば、そんな時代ほど望まぬものはない。
しかし、彼からすれば、それは紛れもなく『自分が必要とされない時代』。
『霊珠』を研究している間も、不安は頭の端にちらついていた。
それを、元始天尊さまのいいつけだからと言い訳を立てて、自分の興味の為に頭の隅から追いやり、彼を生み出したのは、私の責任。
彼には、なんの罪もない。
いつか、『封神計画』の名の下に、彼が戦火に身を投じるようになった頃、友人に相談したことがあった。
友人は表情も変えず、淡々と答えた。
彼は必要とされている。
私が、それは今の時代だからだと反発しても、彼はその時の私には理解し得ぬ理由によって、答えを変えなかった。
本質は、変わり始めているよ。
そう言った後は、私が何を言っても、一言も答えなかった。
それから、彼は『封神計画』において、素晴らしい功績を挙げていった。
最後の戦いにすら、スーパー宝貝を持ち、宿敵・妲己の妹や、『始まりの人』と呼ばれる未知の相手に、それこそ対等以上に渡り合った。
そして、長き戦いの歴史を経て、私達は戦わずに生きる時代に立っている。
彼は、様々な経験を経て、様々な人々と交わって、気付くと、『護る』ということを知っていた。
いつから彼は、『壊す』ことに恐怖を覚えたのだろう?
いつから彼は、『壊す』ことの意味を考えるようになったのだろう?
私はいつもの日課に従って、今日も友人の下を訪れる。
私の顔を見て、友人は答えた。
「生まれさせたのは君の責任。でも、生き方を選んでいくのは彼の責任だよ。」